自動運転車で会議や映画鑑賞。モビリティを生産的な時間に変える未来とは。
非言語のインタラクティブなコミュニケーションを形にし、都市と人との接点を描き出す、クリエイティブラボ「PARTY」のクリエイティブディレクター伊藤直樹さん。これまでにNike、Google、Sony、無印良品など企業のクリエイティブディレクションを手がけ、2017年の「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH」には"やさい"とテクノロジーを組み合わせた「でじべじ - Digital Vegetables - by PARTY」を出展し、話題を呼んでいます。そんな伊藤さんにこれからの東京が、六本木が、魅力的な都市であるために何をすべきかお聞きしました。
僕の家は葉山にあるのですが、そこで植物を100種類以上育てているんです。どの植物も育てるのに葉山が最適な環境だとは限りません。一般的には室内で育てることが推奨されている植物を、あえて外に出してみたり、さまざまな実験をこなすことで多種多様な表情を見せます。一見元気そうに見えても、ふれてみると、あまり元気がないように感じることもあります。言葉では伝えられない、目では理解できないことも、ふれて初めてわかることがあるんです。
今回、『Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2017』で出展した「でじべじ」は、イベントのテーマである「ふれる」という原初的なコミュニケーションによって、非言語とインタラクティブの関係性を感じてほしいと考え、設計しました。
「でじべじ - Digital Vegetables - by PARTY」
実際に食べるときと収穫するときでは、野菜の様相はまったく異なります。栽培過程の野菜にふれてみると、花粉を運ばせるために色がついていたり、葉っぱがちょっと毛羽立っていたり、種を残していくための生命力が伝わってきます。
ふれることは何か情報を得ることでもあるのですが、ふれ方の意識の違いによって得られる情報が変わるんです。優しくタッチをしたら葉がゆれて、強くタッチすると茎が跳ね返る。そのたびに、「ふれる」ことの奥深さを感じます。
とはいえ、何かにふれる非言語コミュニケーションを体験する機会はそうないですよね。食事をするときに、ナスの"生存戦略"を意識することなんてないじゃないですか。ましてや都会には畑もそうそうないですし、何かにふれる機会が限られているんです。
「でじべじ」では、ふれたことによって生まれるコミュニケーションを過剰演出することで、インタラクティブな会話をつくりたかったんです。野菜のことをちょっと意識してもらえれば、帰り道に地下のスーパーでナスを買って帰り、ごはんを食べるときにはいつもと違う感覚になってもらえるかなって。
そうなると、普段の生活が変わってくると思うんです。いつも使っている陶器のコップでも、少し持ち方を変えれば「あれ? この陶器ってこんなに肉厚だっけ?」と思うかもしれない。ふれ方によって得られる情報が変わることで、それを好きになったり、嫌いになったり。ふれ方ひとつで、インタラクティブな会話が生まれるんです。
インタラクティブな会話に興味を持ったのは、2006年にXBOX360専用ソフト「BLUE DRAGON」のプロモーションのため、インスタレーションイベント「BIG SHADOW PROJECT」のアートディレクションをしたときに遡ります。渋谷のセンター街にある駐車場を貸し切り、街行く人の影を大きくビルに投影したんです。ただ自分の影が巨大になるという体験だったのですが、身体が拡張される感覚に興奮した人々が熱狂している姿を目の当たりにして、非言語のコミュニケーションに可能性を感じました。
会話のないコミュニケーションっていうと、イメージがうまく伝わらないかもしれないけど、親子でやるキャッチボールを例に取るとわかりやすいでしょうか。親は何も喋らないんだけど、投げたボールに少なからず想いを乗せています。子どももボールをキャッチすると同時に、その想いを受け取る。会話は発生していないんだけども、これぞ究極の非言語コミュニケーションの形だと思います。
また、生まれたばかりの赤ちゃんは言葉を話すことができないので、泣きじゃくったり、お母さんの手を握ったりして会話をします。言葉を介さないコミュニケーションは、原初的で究極的なんです。
ただ、そのコミュニケーションが成立するにはインタラクティブ性が求められます。キャッチボールに話を戻すと、ボールを返さなければたとえ非言語であっても会話が成立することはないでしょう。
インタラクティブを上手に扱いたいときは、テクノロジーが持つ「不甲斐なさ」を料理する必要があります。かつてスマートフォン内蔵カメラに映し出された光景に、GPSを利用して「エアタグ」と呼ばれる付加情報を表示するサービス「セカイカメラ」が話題になりました。しかし、現実世界の情報とWeb上の情報が複雑に重なり合ってしまい、混沌としたUIになってしまったんです。GPSの精度が高くなかったために、普及しなかった。
逆に、そのテクノロジーの不甲斐なさを巧みに利用したのが「Pokémon GO」です。「Pokémon GO」はGPSによって場所を知覚し、そこにモンスターを出現させていました。ただ、セカイカメラ同様に誤差が出てしまう。そこで、GPSのズレをあらかじめ利用したサービスが開発されたのです。
僕は「Pokémon GO」のヘビーユーザーで、よく新宿御苑にモンスターを捕まえに行っていました。ただ、新宿御苑は午後4時30分に閉園してしまいます。そうすると、園内にいるモンスターに出会えない。でもGPSにズレがあることで、柵の前でじっくり待っていると、モンスターが「ぴょん」と現れることがあるんです。
そうすると、そのポイントに人がいっせいに移動していきます。はたから見たら異常な光景ですよ。僕も一緒に移動しているうちのひとりなんですけど(笑)。でもそれって、非常にインタラクティブな設計だと思いませんか?
テクノロジーによってこれからのデザインやコミュニケーションは変化していきます。例えば準天頂衛星システム「みちびき」が打ち上げに成功したことで、GPSも今後より精度を増していくでしょう。「Pokémon GO」はズレを前提とした設計でしたが、今後はズレがないことを前提としたサービスが生まれてくるわけです。
GPSがある地点を正確に認識できるようになれば、ピンポイントでその情報をスマートフォンに表示させることができるようになります。そうすると、「この椅子には過去誰が座り、どんな景色を見たか」といった細かい情報にまで一瞬でアクセスできるようになっていくんです。街の情報も事細かに記憶することができますから、場所とメディアが融合するような世界が実現していくと思いますよ。